つた。アキ子にもこんなにしてやつたの! そして目が怒りのために狂つてゐるのだ。それが陶酔の頂点に於ける譫言《うわごと》だつた。その陶酔の頂点に於て目が怒りに燃えてゐる。常に変らざる習慣だつた。なんといふことだらう、と私は思ふ。
この卑小さは何事だらうかと私は思ふ。これが果して人間といふものであらうか。この卑小さは痛烈な真実であるよりも奇怪であり痴呆的だと私は思つた。いつたい女は私の真実の心を見たらどうするつもりなのだらう? 一人のアキは問題ではない。私はあらゆる女を欲してゐる。女と遊んでゐるときに、私は概ねほかの女を目に描いてゐた。
然し女の魂はさのみ純粋なものではなかつた。私はあるとき娼家に宿り淋病をうつされたことがあつた。私は女にうつすことを怖れたから正直に白状に及んで、全治するまで遊ぶことを中止すると言つたのだが、女は私の遊蕩をさのみ咎めないばかりか、うつされてもよいと云つて、全治せぬうちに遊ばうとした。それには理由があつたのだ。女の良人は梅毒であり、女の子供は遺伝梅毒であつた。夫婦の不和の始まりはそれであつたが、女は医療の結果に就て必ずしも自信をもつてゐなかつた。そして彼女
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