し図書館へ通つた。私自身に考へる気力がなかつたので、私は私の考へを本の中から探しだしたいと考へた。読みたい本もなく、読みつゞける根気もなかつた。私は然し根気よく図書館に通つた。私は本の目録をくりながら、いつも、かう考へるのだ。俺の心はどこにあるのだらう? どこか、このへんに、俺の心が、かくされてゐないか? 私はたうとう論語も読み、徒然草も読んだ。勿論、いくらも読まないうちに、読みつゞける気力を失つてゐた。
すると皮肉なもので、突然アキが私達をたよつて落ちのびてきたのだ。アキは淋病になつてゐた。それが分ると、男に追ひだされてしまつたのだ。もつとも、男に新しい女ができたのが実際の理由で、淋病はその女から男へ、男からアキへ伝染したのが本当の径路なのだといふのだが、アキ自身、どうでもいゝや、といふ通り、どうでもよかつたに相違ない。アキは薄情な女だから友達がない。天地に私の女以外にたよるところはなかつた。
私の女が私をこの田舎町へ移した理由は、私をアキから離すことが最大の眼目であつたと思ふ。それは痛烈な思ひであつたに相違ない。なぜなら、女はその肉体の行為の最大の陶酔のとき、必ず迸しる言葉があ
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