合ぐらゐも血を吐いた。
 然し、アキの復讐はさらに辛辣だつた。アキは私の女に全てを語つた。それはあくどいものだつた。肉体の行為、私のしわざの一部始終を一々描写してきかせるのだ。私の女のからだには魅力がないと言つたこと、他の誰よりも魅力がないと言つたこと、すべて女に不快なことは掘りだし拾ひあつめて仔細に語つてきかせた。

          ★

 私は女のねがひは何と悲しいものであらうかと思ふ。馬鹿げたものであらうかと思ふ。
 狂乱状態の怒りがをさまると、女はむしろ二人だけの愛情が深められてゐるやうに感じてゐるとしか思はれないやうな親しさに戻つた。そして女が必死に希つてゐることは、二人の仲の良さをアキに見せつけてやりたい、といふことだつた。アキの前で一時間も接吻して、と女は駄々をこねるのだ。
 かういふ心情がいつたい素直なものなのだらうか。私は疑らずにゐられなかつた。どこかしら、歪められてゐる。どこかしら、不自然があると私は思ふ。女の本性がこれだけのものなら、女は軽蔑すべき低俗な存在だが、然し、私はさういふ風に思ふことができないのである。最も素直な、自然に見える心情すらも、時に、歪めら
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