、襟足や腕の露出の程度に就て魅力を考へても、裸になれば、それまでのことだ。その真実の魂の低さに就て、この女はまつたく悟るところがなかつた。
私はそのころ最も悪魔に就て考へた。悪魔は全てを欲する。然し、常に充ち足りることがない。その退屈は生命の最後の崖だと私は思ふ。然し、悪魔はそこから自己犠牲に回帰する手段に就て知らない。悪魔はたゞニヒリストであるだけで、それ以上の何者でもない。私はその悪魔の無限の退屈に自虐的な大きな魅力を覚えながら、同時に呪はずにはゐられなかつた。私は単なる悪魔であつてはいけない。私は人間でなければならないのだ。
然し、私が人間にならうとする努力は、私が私の文学の才能の自信に就て考へるとき、私の思想の全部に於て、混乱し壊滅せざるを得なかつた。
するともう、私自身が最も卑小なエゴイストでしかなかつた。私は女を「所有した」ことによつて、女の存在をたゞ呪はずにゐられなかつた。私は私の女の肉体が、その生殖器が特別魅力の少いことに就てまで、呪ひ、嘆かずにゐられなかつた。
「あなたのマダムのからだ、魅力がありさうね」
「魅力がないのだ。凡そ、あらゆる女のなかで、私の知つた女
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