は全然さとらなかつた。
 単なるエゴイズムといふものは、肉慾の最後の場でも、低級浅薄なものである。自分の陶酔や満足だけをもとめるといふエゴイズムが、肉慾の場に於ても、その真実の価値として高いものでは有り得ない。真実の娼婦は自分の陶酔を犠牲にしてゐるに相違ない。彼女等はその道の技術家だ。天性の技術家だ。だから天才を要するのだ。それは我々の仕事にも似てゐる。真実の価値あるものを生むためには、必ず自己犠牲が必要なのだ。人のために捧げられた奉仕の魂が必要だ。その魂が天来のものである時には、決して幇間《ほうかん》の姿の如く卑小賤劣なものではなく、芸術の高さにあるものだ。そして如何なる天才も目先の小さな我慾だけに狂つてしまふと、高さ、その真実の価値は一挙に下落し死滅する。
 この女は着物の着こなしの技巧などに就て細々と考へ、どんな風にすればウブな女に見えるとか、どの程度に襟や腕を露出すれば男の好色をかきたてうるとか、そしてさういふ計算から煙草も酒も飲まない女であつた。然しながら、この女の最後のものは自分の陶酔といふことだけで、天性の自己犠牲の魂はなかつた。裸になれば、それまでだ。どんなにウブに見せ
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