ために、何かより高い人間であることを示すために、女に向つて無益な努力を重ねるなら、私はより多く馬鹿になる一方だ。事実私はすでにそれ以上に少しも高くはないのである。だから私はハッキリ生殖器自体に定着して女とよもやまの話をはじめた。
 女は私が三文々士であることを知つてゐるので、男に可愛く見えるにはどうすればよいかといふことを細々《こまごま》と訊ねた。女は主として大衆作家の小説から技術を習得してゐる様子であつたが、その道にかけては彼等の方が私より巧者にきまつてゐるから私などそれに附け足す何もない、私がさう言ふと女は満足した様子に見えた。女は学生達の大半は物足らないのだと言つた。私がハズをだまし、あなたがマダムをだまして、隠れて遊ぶのはたのしいわね、と女が言つた。私は別にたのしくはない。私はたゞ陳腐な、それは全く陳腐それ自体で、鼻につくばかりであつた。
 女の肉体は魅力がなかつた。女は男の生殖器の好奇心のみで生きてゐるので、自分自身の肉体的の実際の魅力に就て最大の不安をもつてゐた。けれども、さういふことよりも、自分の肉慾の満足だけで生きてゐる事柄自体に、最も魅力がないのだといふことに就て、女
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