浮気をしてゐる女で、千人の男を知りたいと言つてをり、肉慾の快楽だけを生き甲斐にしてゐた。かういふ女は陳腐であり、私はその魂の低さを嫌つてゐた。一見綺麗な顔立で、痩せこけた、いかにも薄情さうな女で、いつでも遊びに応じる風情で、私の好色を刺戟しないことはなかつたが、私はかゝる陳腐な魂と同列になり下ることを好まなかつた。私が女に「遊ばう」と一言さゝやけばそれでよい。そしてその次に起ることはたゞ通俗な遊びだけで、遊びの陶酔を深めるための多少のたしなみも複雑さもない。たゞ安直な、投げだされた肉慾があるだけだつた。
 さう信じてゐる私であつたが、私は駄目であつた。あるとき私の女が、離婚のことで帰郷して十日ほど居ないことがあり、アキが来て御飯こしらへてあげると云つて酒を飲むと、元より女はその考へのことであり、私は自分の好色を押へることができなかつた。
 この女の対象はたゞ男の各々の生殖器で、それに対する好奇心が全部であつた。遊びの果に私が見出さねばならぬことは、私自身が私自身ではなく単なる生殖器であり、それはこの女と対する限り如何とも為しがたい現実の事実なのであつた。もしも私が単なる生殖器から高まる
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