も竜頭蛇尾であつた。刑事はいくらか呆気にとられたが女の泣き方がだらしがないので、ひるまなかつた。
「この人は本当にこの女の人の旦那さんです」
と私も出て行つて説明したが、だめだつた。男は私に黙礼して、落付いて、肩をならべて行つてしまつた。そのときだ、ちやうどそこに露路があり、露路の奥から私の女が出てきたのだ。女は黒い服に黒い外套をきてをり、白い顔だけが浮いたやうに街燈のほの明りの下に現れたとき、私はどういふわけなのか見当がつかなかつたが、非常に不快を感じた。私達のつながりの宿命的な不自然に就て、胸につきあがる怒りを覚えた。
私の女は私に、行きませう、と言つた。当然私が従はねばならぬ命令のやうなものと、優越のやうなものが露骨であつた。私はむらむらと怒りが燃えた。私は黙つて店内へ戻つて酒をのみはじめた。私の前には女と男が一本づゝくれた二本の酒があるのだが、私はもはや吐き気を催して実際は酒の匂ひもかぎたくなかつた。女は帰らないの、と言つたが、帰らない、君だけ帰れ、女は怒つて行つてしまつた。
ところが私は散々で、私はスタンドの気違ひ女に追ひだされてしまつたのである。この女は逆上すると気違
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