る。さうなりたいのは女の本心であつた。いくらかの土地を買つて田舎へ住みませうよ。頻りに女はさう言ふのだ。
さういふ女だから私が不満なわけではない。元々私が女を「所有」したことがいけないので、私は女の愛情がうるさくて仕方がなかつた。
「ほかに男をつくらないか。そしてその人と正式に結婚してくれないかね」
と私は言ふが、女がとりあはないのにも理由があり、私は甚だ嫉妬深く、嫉妬といふより負け嫌ひなのだ。女が他の男に好意をもつことに本能的に怒りを感じた。そんな怒りは三日もたてば忘れ果て、女の顔も忘れてしまふ私なのだが、現在に処して私の怒りの本能はエネルギッシュで、あくどい。女が私の言葉を信用せず、私の愛情を盲信するにも一応自然な理由があつた。
私が深夜一時頃、時々酒を飲みに行く十銭スタンドがあつた。屋台のやうな構へになつてゐるので二時三時頃まで営業してもめつたに巡査も怒らない仕組で、一時頃酒が飲みたくなる私には都合の良い店であつた。三十ぐらゐの女がやつてをり、客が引き上げると戸板のやうなものを椅子の上へ敷いてその上へねむるのださうで、非常に多淫な女で、酔つ払ふと客をとめる。けれども百万の人
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