にもましてうすぎたない不美人で、私も時々泊れと誘はれたが泊る気持にはとてもならない。土間に寝るのが厭なんでせう、私があなたの所へ泊りに行くからアパートを教へて、と言ふが、私はアパートも教へなかつた。
この女には亭主があつた。兵隊上りで、張作霖《ちょうさくりん》の爆死事件に鉄路に爆弾を仕掛けたといふ工兵隊の一人で、その後の当分は外出どめのカンヅメ生活がたのしかつた、とそんな話を私にきかせてくれた。無頼の徒で、どこかのアパートにゐるのだが、女は亭主を軽蔑しきつてをり、客の中から泊る勇士がない時だけ亭主を泊めてやる。亭主は毎晩見廻りに来て泊る客がある時は帰つて行き、ヤキモチは焼かない代りに三四杯の酒と小づかひをせびつて行く。この男が亭主だといふことは私以外の客は知らない。私は女に誘はれても泊らないので亭主は私に好意を寄せて打ち開けて話し、女も私には隠さず、あのバカ(女は男をさうよんだ)ヤキモチも焼かない代りに食ひついてエモリみたいに離れないのよ、と言つた。私と男二人だけで外に客のない時は、今晩泊めろ、泊めてやらない、ネチ/\やりだし、男が暴力的になると女が一さう暴力的にバカヤロー行つてくれ
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