、襟足や腕の露出の程度に就て魅力を考へても、裸になれば、それまでのことだ。その真実の魂の低さに就て、この女はまつたく悟るところがなかつた。
私はそのころ最も悪魔に就て考へた。悪魔は全てを欲する。然し、常に充ち足りることがない。その退屈は生命の最後の崖だと私は思ふ。然し、悪魔はそこから自己犠牲に回帰する手段に就て知らない。悪魔はたゞニヒリストであるだけで、それ以上の何者でもない。私はその悪魔の無限の退屈に自虐的な大きな魅力を覚えながら、同時に呪はずにはゐられなかつた。私は単なる悪魔であつてはいけない。私は人間でなければならないのだ。
然し、私が人間にならうとする努力は、私が私の文学の才能の自信に就て考へるとき、私の思想の全部に於て、混乱し壊滅せざるを得なかつた。
するともう、私自身が最も卑小なエゴイストでしかなかつた。私は女を「所有した」ことによつて、女の存在をたゞ呪はずにゐられなかつた。私は私の女の肉体が、その生殖器が特別魅力の少いことに就てまで、呪ひ、嘆かずにゐられなかつた。
「あなたのマダムのからだ、魅力がありさうね」
「魅力がないのだ。凡そ、あらゆる女のなかで、私の知つた女のからだの中で、誰よりも」
「あら、うそよ。だつて、とても、可愛く、毛深いわ」
私は私の女の生殖器の構造に就て、今にも逐一語りたいやうな、低い心になるのであつたが、私自身がもはやそれだけの屑のやうな生殖器にすぎないことを考へ、私はともかく私の女に最後の侮辱を加へることを抑へてゐる私自身の惨めな努力を心に寒々と突き放してゐた。
「君は何人の男を知つた?」
「ねえ、マダムのあれ、どんな風なの? ごまかさないで、教へてよ」
「君のを、教へてやらうか」
「えゝ」
女は変に自信をくづさずに、ギラ/\した眼で笑つて私を見つめてゐる。
私はそのときふと思つた。それは女のギラ/\してゐる眼のせゐだつた。私はスタンドの汚い女を思つたのだ。あの女は酔つ払ふといつも生殖器の話をした。男の、又、女の。そして、私に泊らないかと言ふ時には、いつもギラ/\した眼で笑つてゐた。
私は今度こそあのスタンドへ泊らうと思つた。一番汚いところまで、行けるところまで行つてやれ。そして最後にどうなるか、それはもう、俺は知らない。
★
私はあの夜更にスタンドを追ひだされて以来、その店へ酒を飲みに行
前へ
次へ
全20ページ中12ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング