リ顔色を変える、あそこも、まずい。あそこで、ハッキリしすぎてしまう。こういう際には、写真を見ないうちに、兄を殺させる方がよろしく、すべてトリックは、そういう工夫に細心の注意を要する。
元々探偵小説のトリックというものは、根は、それだけの、ハッキリした、分りきったものだ。それを裏がえしにして、さりげなく、分らないように、色々と術を弄し策をほどこして、読者に提出して行く、その提出の仕方に、工夫が要るのである。
この作者は、よいトリックをもち、性本来ケレンがなく、論理的な頭を持っているのだが、つまり、読者に提出して行く工夫に、策が足りなかった。そして、文章もまずい。まずいけれども、さのみ不快を与えるほどの文章でもないから、これから筆になれゝば、これで役に立つだけの文章力はある。大切なことは、トリックを裏がえしにして、読者に提出して行く場合の工夫に重々細心の注意を払うことを知ることである。
私は、この作者は、未来があると思っている。ケレンがなく、頭脳が論理的だからである。以後は、横溝君に弟子入りして、テクニックを学ばれるがよい。他の探偵作家はダメである。君の師とするに足る人はいない。みんな頭が論理性を欠いているから、本格探偵小説は書ける筈のない方々だ。
横溝君のも一つ偉いのは、くだらぬ衒学性のないことだ。文章も益々うまくなっている。月刊読売の「ビックリ箱殺人事件」などという珍妙なファルスでも、あれだけの筆力があれば大したもの、獄門島の筆力も次第に冴えている。
角田君も、あの奇術性に、もっと正確な必然性をもたせ、謎の全部をもッとハッキリ読者に提出して、それで読者とゲームを争えるだけの構成の逞しさがあると、いいのだが、やっぱり多作せざるを得ないから構成がぐらつき、奇術にたよって、ごまかしてしまうのだろうと思う。
言いもらしたが、近ごろの横溝君には、作中人物に性格がでゝきた。これは探偵作家に例の少いことで、外国にも、あんまりない。蝶々や獄門島ぐらいになると、外国の探偵小説を読むよりも却って楽しく、安心して読め、彼はもう世界的な一流探偵作家だと私は思っているのである。
「古墳殺人事件」
これは、ひどすぎるよ。私にこれを読めという、宝石の記者は、まさに、こんなものを人に読ませるなんて、罪悪、犯罪ですよ。罰金をよこしなさい。罰金をよこさないと訴えるよ。
僕ら、小説を書い
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