「花」の確立
坂口安吾
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)苦力《クリー》
−−
文学も勿論さうだが、生活も、元来が平時のものである。戦争は特殊な過渡期で、いはゆる非常時だから、戦場に文学はないし、また生活もないと思ふ。
戦勝後の国力の増大、また個人生活の増大、文化も文学も、本来そこに結びついてゐるものだ。
戦前の日本は、なんといつても生活程度が低かつた。日本人は最も素質ある国民で、観念生活は豊富であるにも拘らず、生活程度がそれにともなはないために、生活感情が混乱せざるを得なかつた。生活に浪曼的情熱の正当な温床がなかつたから、従而、感情のともなはぬ知性も発育するに由なく、徒らに混乱して、芸術の姿を失ふばかりであつた。
元来、苦力《クリー》に芸術はない。苦力には苦力の芸術がなければならぬといふことは、嘘である。芸術はそのあるべき場所にしか有り得ない。
新日本の生活内容の増大が生活感情を確立させ、生活に浪曼的情熱のみなぎる時を、僕は最も切望する。そのやうな時代には、文学は、まづ芸術でなければならぬものである。そして、芸術は浪曼精神の所産以外の何物でも
次へ
全3ページ中1ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング