ない。
 芸術は生の分裂をさらしては成立たない。当今知性文学とよばれるものの芸術上の失敗もここにあり、モラル探究の情熱が却つて文学を殺す結果を生んだ。即ち作家の人生発育の分裂が、芸術自体と混同され、芸術そのものに分裂や、生の裸像をさらしたことの間違ひであつた。知性やモラル探究が間違つてゐたのではない。また、作家自体の分裂は、芸術の最も重大な温床である。
 新らしい文学に必要なのは、芸術としての完成である。生活の「花」としての確立である。芸術は政治ではなく、米や塩ではないのである。生活の余計ものには相違ないが、元来、四季の花、余計ならぬものはない。花を見ぬ人に縁はないが、花や遊びに生存の意味の一部を托す精神の確立によつて、人の世界は、むしろ健康になるものなのだ。



底本:「坂口安吾全集 02」筑摩書房
   1999(平成11)年4月20日初版第1刷発行
底本の親本:「読売新聞 第二二一九八号第一夕刊」
   1938(昭和13)年11月15日発行
初出:「読売新聞 第二二一九八号第一夕刊」
   1938(昭和13)年11月15日発行
入力:tatsuki
校正:今井忠夫
2005
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