せてそのまゝポケットへねじ込んでしまったのだ。その上彼は酒場から出ていくときに、何となくソワ/\と落ちつきがなかった。主人は五十|弗《ドル》の紙幣をつく/゛\しらべ始めた。どうもニセ札くさいが、はっきりそうとも断定出来ない。しかし、兎に角主人は、給仕男を一人呼びつけた。ニンゲルをとらえて引き返えさせるようにいいつけた。
その給仕男は、店から外へ出てみたが、もうニンゲルの姿はみられなかった。この男はコートランド・ストリートの渡船場に駈けつけてみたが、そこにもやはりニンゲルはいなかった。そこであまり遠くはなれていないリバーティ・ストリートの渡船場に駈けつけた。あゝ、そこにニンゲルが、ベンチに腰をおろしてしきりと先刻の両替の金を計算しているではないか。給仕男が、お前はニセ札使だとニンゲルにつめよると、ニンゲルはあの五十ドル札はさる大会社から受け取ったのだといゝ張り、その上酒場へ帰って主人に金を戻し、こんな騒を起した償として、五ドル出そうと申し出た。給仕男は、一応その申し出を受け入れたようにみせかけて、渡船場からニンゲルを連れ出し、その足で警官に彼を引き渡してしまった。ニンゲルは一向にひるむ
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