ナ頭を振って、また高い声で口をきいたり尺度を測ったりしはじめた。
 仕事がすむと、彼は私のほうへ近づきながら、その響きの高い声で言った。
「きみ、六か月たつと、この監獄はずっとよくなるですよ。」
 そしてその身振りはこう言い添えてるようだった。
「きみがそれを味わえないのは、気の毒だ。」
 彼はほとんどほほえんでいた。婚礼の晩に新婦をからかいでもするようなふうに、彼がいまにも私を静かに冷笑しかかってるらしく、私には思えた。
 古参の腕章をつけてる老兵である憲兵は、返事をひきうけてくれた。
「あなた、」と彼は言った、「死人の室でそんなに高い声で話すものではありません。」
 建築技師は出ていった。
 私はそこに、彼が測ってた石の一つのようにじっとしていた。

       三二

 それから次に、おかしなことがあった。
 私についてる善良な老憲兵は取り除かれた。私は恩知らずに得手勝手にも彼に握手をさえしてやらなかった。彼と交替に他の憲兵が来た。額のひしゃげた、目の太い、無能な顔つきの男だった。
 それにまた、私はすこしも注意を払っていなかった。扉に背を向け、テーブルの前に座って、手で額を冷
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