チて、二つの部分に分かたれている。その二つの部分にはそれぞれ、馬車の前方と後方とに一つの扉がついている。全体がいかにも汚く黒く埃っぽくて、貧乏人の葬式馬車もそれにくらべれば成聖式の幌馬車ほどになる。
 その二輪車の墓のなかにはいりこむ前に、私は中庭に一瞥《いちべつ》を、壁をも突き崩すほどの絶望の一瞥を投げた。中庭は樹木の植えてある小さな広場みたいなものだったが、徒刑囚らの時よりもなおいっそう見物人でいっぱいだった。いまからもう人だかりだ!
 鎖に繋がれた者たちが出発した日と同じに、季節の雨が、こまかな冷たい雨が、降っていた。これを書いている今もなおその雨が降っている。おそらく今日じゅうは降るだろう。私の生命よりも長く降りつづくことだろう。
 道は壊れていたし、中庭は泥と水とでいっぱいだった。その群集をその泥のなかに見るのが私にはうれしかった。
 私たちは馬車に乗った、執達吏と一人の憲兵とは前部の室に、司祭と私と一人の憲兵とは後部の室に。騎馬の憲兵が四人馬車のまわりにしたがった。かくて、御者を別にして、一人に八人の者がついてるわけである。
 私が馬車に乗ってる時、灰色の目をした老年の女が
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