フ寝台に対して私は不快さとなさけなさのため、たじろいだろう。しかし私はもう以前と同じ人間ではなかった。おおい布は灰色で手ざわりが粗く、毛布は貧弱で穴があいており、ふとん越しに下の藁ぶとんが感じられはしたが、それでも、そのひどいおおい布のあいだに、私の手足は自由にくつろぐことができ、どんなに薄かろうとその毛布の下に、私がいつも覚えるあの骨の髄の恐ろしい寒さはしだいに消えてゆくのが感じられた。――私はまた眠った。
 ひどい物音に私はまた目を覚ました。夜が明けかかっていた。物音は外から聞こえていた。私の寝台は窓のそばにあった。私は体をおこして、なにごとかと眺めた。
 窓はビセートルの大きい中庭に面していた。その中庭は人でいっぱいだった。二列に立ちならんでいる老兵らが、その人ごみのまんなかに、中庭を横ぎって、狭い通路をかろうじてあけていた。その兵士の二重の列のあいだに、人を積んだ長い荷馬車が五つ、敷石の一つ一つに揺らめきながら徐々に進んでいた。徒刑囚らが出かけるのだった。
 それらの荷馬車には何の覆いもなかった。一連の徒刑囚がそれぞれ一台に乗っていた。彼らは馬車の両側に横向きに腰かけ、互いに背
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