フ縁《ふち》どりがついて入念に飾られている。
 猥褻《わいせつ》な小唄の一連がある。
 石にかなり深く刻んである自由の帽子が一つあって、その下にこう書かれている、「ボリー[#「ボリー」に傍点]。――共和[#「共和」に傍点]。」それはラ・ロシェルの四人の下士の一人だった。憐れな青年だ。政治上のいわゆる必要事なるものはいかに忌《いま》わしいことか。一つの観念に対して、一つの夢想に対して、一つの抽象に対して、断頭台という恐ろしい現実をもってくる。しかも私でさえ、ほんとうの罪悪を犯し血を流したこのみじめな私でさえ、不平を訴えているのに!
 もうこれ以上壁面を探しまわるのをよそう。――壁の片隅に恐ろしい形のものが白く書かれてるのを、私は見てとった。今頃はおそらく私のために立てられてるはずの、あの死刑台の形だ。――あやうく私はランプを取り落としそうだった。

       一二

 私は急いで寝藁のところに戻って、頭を膝に垂れて座った。それから子供らしい恐怖の念は消え、異様な好奇心にまたとらえられて、壁面を読んでゆくことを続けた。
 パパヴォアーヌの名前の横で、壁の角に張られ埃で厚くなってるごく大
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