驕tしてください、赦してください!」と私はくりかえした。「さもなくば、御慈悲に、もう五分間猶予してください。どうなるかわかりません、赦されるかもしれません。私くらいの年齢で、こんな死にかたをするのは、どうにも恐ろしいことです。最後のまぎわに特赦がくる、そういうこともたびたびありました。私が特赦を受けないとすれば、誰が特赦を受ける資格がありましょう?」
 呪うべき死刑執行人、彼がそのとき裁判官に近寄ってきて言った、死刑の執行は一定の時間になされなければならない、その時間がもうせまっている、自分は責任をになっている、そのうえ雨が降っている、機械のさびるおそれがあると。
「どうぞ御慈悲に、一分間私の赦免の来るのを待ってみてください。さもなくば、私は抵抗します、かみつきます!」
 裁判官と死刑執行人とは出ていった。私はひとりきりだ。――二人の憲兵と一緒なだけだ。
 おお、山犬のように叫び声をたててる恐ろしい群集!――わかるものか、私が彼らから遁《のが》れられないかどうか、私が助からないかどうか、私の赦免が……。私が赦免されないということがあるものか。
 ああ、あいつら、階段をのぼってくるようだ
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