セ客間から食堂へ通ずる扉が、いつものとおりでないように私には思えた。
私たちは食堂にはいった。そしてひとまわりした。私はまっ先に歩いた。階段の上の扉はよく閉まっていたし、窓もみなそうだった。炉のそばまで行って、見ると、布巾《ふきん》戸棚が開いていて、その扉が壁の隅を隠すようにそちらへひっぱられていた。
私はびっくりした。扉の後ろに誰かがいると私たちは思った。
私はその扉に手をかけて戸棚を閉めようとした。扉は動かなかった。驚いていっそう強くひっぱると、扉はふいに動いて、私たちの前に一人の老婆の姿があらわれた。背が低く、両手をたれ、目を閉じ、不動のままで、つっ立って、壁の隅にくっついたようになっていた。
何かしらひどく醜悪な感じだった。今考えても髪の毛がさかだつほどである。
私はその老婆にたずねた。
「何をしてるんだ。」
彼女は答えなかった。
私はたずねた。
「お前は誰だ。」
彼女は答えもせず、身動きもせず、目を閉じたままだった。
友人らは言った。
「はいりこんできた悪いやつらの仲間にちがいない。ぼくたちがやってくるのを聞いて、みんな逃げだしてしまったが、こいつは逃げきれ
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