謔闖ャさな第二の中庭があって、こちらと同じように黒ずんだ壁と切妻とで囲まれている。
 こちらの大きな中庭には、周囲にぐるりと、壁によりかかってる石の腰かけがあって、まんなかに、ランプをさげるためのまがった鉄の柱が立っている。
 十二時が鳴った。奥まったところにかくれてる大きな大門が突然開かれた。一台の荷車が、青い服と赤い肩章と黄色い負革とをつけてる汚い見苦しい一種の兵士らに護られて、鉄具の音をたてて重々しく中庭にはいってきた。それは徒刑の一群と鎖とであった。
 同時に、あたかもその音が監獄じゅうの音を呼びさましたかのように、その時まで黙ってじっとしていた窓の見物人らは、喜びの叫びや、唄の節や、脅かしの言葉や、呪いの声を、聞くもいたましい笑いとともに、一度にどっと挙《あ》げた。ちょうど悪魔の面を見るがようだった。どの顔にもみな渋面が浮かび、すべての拳《こぶし》が鉄格子から突き出され、すべての声がわめき、すべての目が燃えたった。いわばその灰の中からそれほどの火花がひらめきだすのを見て、私は恐ろしくなった。
 そのうちに監視らは平然と仕事を始めた。その中には、きれいな服装や恐怖の様子などで、パリからやってきた好奇な連中のまじってることが見てとられた。監視の一人は荷車に乗って、鎖と旅行首輪と麻ズボンのたばとを仲間に投げおろした。そこで彼らはそれぞれ仕事を分担した。ある者らは中庭の隅に行って、彼らの言葉で綱[#「綱」に傍点]と言われる長い鎖を伸ばした。ある者らは敷石の上に、琥珀[#「琥珀」に傍点]と言われるシャツとズボンとをひろげた。一方ではもっとも目の利く連中が、背の低いでっぷりした老人である監視長の見る前で、鉄の首枷《くびかせ》を一つ一つ検査し、つぎにそれを火花の出るほど敷石の上にたたきつけてためした。すべてそれらの仕事につれて、囚人らの嘲笑的な歓呼の声が起こり、ついでなお高く、それらの準備の当人たる徒刑囚らのそうぞうしい笑い声が起こった。徒刑囚らは小さいほうの中庭に面した古い監獄の窓に拘禁されてるのが見えていた。
 それらの用意が整ってしまうと、監察官殿[#「監察官殿」に傍点]と呼ばれてる銀のぬいとりをつけた男が、監獄の主事[#「主事」に傍点]に命令をくだした。とすぐに、二、三の低い門が開いて、ぼろをつけた見苦しいわめきたてる男の群を、みなほとんど同時に、ひと息ごとに吐き出すように、中庭の中に送りだした。徒刑囚だった。
 彼らがやって来ると、窓の者らはますます喜びの声をはりあげた。徒刑囚のうちのある者など、徒刑場に名の響き渡ってる者などは、歓呼と喝采《かっさい》とを浴びせられて、それを一種のほこらかな謙遜《けんそん》さで迎えた。多くの者は監房の藁で手ずから編んだ帽子めいたものをかぶっていたが、通ってゆく町々でそれによって自分を目立たせようと、どれもみなへんてこな形をしていた。そういうのはなおいっそう喝采された。ことにある一人は熱烈な称賛を博した。それは娘のような顔をした十七歳の青年だった。八日前から接見禁止で禁錮されてる監房から出て来たのだった。彼は監房の藁たばで一つの服を作って、それを頭から足先まですっぽりとまとい、蛇のような軽快さでとんぼ返りをしながら中庭にはいってきた。窃盗のために処刑された道化役者だった。激しい拍手と歓喜の声とがおこった。徒刑囚らもそれに答えた。ほんものの徒刑囚と見習いの徒刑囚とのあいだのその喜悦の贈答は、恐るべき事柄だった。獄吏らとふるえている見物人らとで代表されてる社会がいくらそこに控えていても、罪悪は面と向かって社会を嘲笑し、その恐ろしい懲罰を内輪同士の祝いごととしていた。
 彼らはやってくるにしたがって、監視らの立ちならんでいるあいだを、鉄柵のついた小さなほうの中庭に押しやられた。そこには医者たちが彼らを診察するために待ち受けていた。囚人らは皆そこで、目が悪いとか足が不自由だとか手が不具だとか、なんらかの健康上の口実を述べたてて、移送を避けるために最後の努力を試みた。しかし皆たいていは徒刑場に適するものと認められた。すると彼らは各自こともなげにあきらめをつけて、いわゆる生涯の不具なるものをすぐに忘れてしまった。
 小さな中庭の鉄柵はまた開かれた、一人の獄吏がアルファベット順に点呼した。すると彼らは一人一人出てきて、大きなほうの中庭の隅に行き、名前の頭文字のままに与えられた仲間のそばに立ちならんだ。かくて彼らは各自に自分自身だけになされる。各自に自分の鎖を担い、未知の者と相並ぶ。偶然一人の友があっても、鎖のためにへだてられる。最後の悲惨事だ。
 約三十人ばかり出てきたとき、鉄柵はまた閉ざされた。一人の監視が棒で彼らに列を正させ、粗麻《あらあさ》の一枚のシャツと上衣とズボンとを一人一人の前に投げ出し、そ
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