チてるところを呼ばれて、二時間後には死ななければならないことを告げられた。彼は全身ふるえあがった。なぜなら、もう六か月間も彼は放っておかれて、死を予期していなかった。彼はひげをそられ、髪を刈られ、縛りあげられ、懺悔《ざんげ》をさせられた。それから四人の憲兵に護られ、群集のあいだを通って、刑場へ車で運ばれた。そこまでは何の奇もなかった。いつもそういうふうになされるのである。断頭台に着くと、死刑執行人は彼を司祭から受け取り、彼を奪い去り、彼を跳板の上にゆわえ、隠語を用いれば彼を竈に入れ[#「竈に入れ」に傍点]、それから肉切り庖丁を放した。重い鉄の三角刃は落ちぐあいが悪く、溝縁の中にがたついて、ひどいことには、男を切っただけで殺すに至らなかった。男は恐ろしい叫び声をたてた。死刑執行人は狼狽して、また庖丁を引きあげて落とした。庖丁は二度|科人《とがにん》の首を切ったが、まだそれを切断しなかった。科人はわめき、群集もわめいた。死刑執行人はまた庖丁を引きあげて、三度目に望みをかけた。だめだった。三度目の打撃は受刑人の首すじから三度血をほとばしらせたが、頭を切り落とさなかった。簡単に述べよう。肉切庖丁は五度引きあげられ落とされて、受刑人を五度切りつけた。受刑人は五度ともその打撃の下にわめき声をたて、宥恕《ゆうじょ》を求めながら生きた頭をうち振った。群集は憤激して石を拾い、みじめな死刑執行人に正義の石を投じた。死刑執行人は断頭台の下に逃げだして、憲兵らの馬の後ろに隠れた。しかしそれだけではない。受刑人は断面台の上に一人きりになったのを見て、跳板の上に立ちあがり、なかば切られて肩に垂れている首を支えながら、血の流れる恐ろしい姿でそこにつっ立って、首を切り離してくれと弱い声で訴えた。群集は憐れみの念でいっぱいになって、いまにも憲兵の列をつき破って五度死刑を受けた不幸な男を助けにいこうとした。ちょうどそのまぎわに、死刑執行人の一人の助手が、二十歳ばかりの青年だったか、断頭台の上にのぼって、縄をといてやるから向きを変えるようにと男に言い、男がそれを信じて言われるままの姿勢をしたのに乗じ、その死にかかってる男の背にとびついて、なんらかのある肉切り庖丁で、首の残りをようやくのことで切り離した。それは実際あったことである。実際見られたことである。本当だ。
 法律の条文によれば、一人の裁判官がその
前へ 次へ
全86ページ中74ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング