浮浪少年の精であった。あたかも傷つけ得べからざる戦いの侏儒《しゅじゅ》であった。弾丸は彼を追っかけたが、彼はそれよりもなお敏捷だった。死を相手に恐ろしい隠れんぼをやってるかのようで、相手の幽鬼の顔が近づくごとに指弾《しっぺい》を食わしていた。

 しかしついに一発の弾は、他のよりねらいがよかったのかあるいは狡猾《こうかつ》だったのか、鬼火のようなその少年をとらえた。見ると、ガヴローシュはよろめいて、それからぐたりと倒れた。防寨《ぼうさい》の者らは声を立てた。しかしこの侏儒《しゅじゅ》の中には、アンテウス([#ここから割り注]訳者注 倒れて地面に触るるや再び息をふき返すという巨人[#ここで割り注終わり])がいた。浮浪少年にとっては街路の舗石《しきいし》に触れることは、巨人が地面に触れるのと同じである。ガヴローシュは再び起き上がらんがために倒れたまでだった。彼はそこに上半身を起こした。一条の血が顔に長く伝っていた。彼は両腕を高く差し上げ、弾のきた方をながめ、そして歌い始めた。

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地面の上に俺《おれ》はころんだ、
罪はヴォルテール、
溝《みぞ》の中に顔つき込んだ、

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