ガヴローシュは答えた。
「うん、雨のようだ。だから?」
 クールフェーラックは叫んだ。
「戻ってこい!」
「今すぐだ。」とガヴローシュは言った。
 そして一躍して街路に飛び出した。
 読者の記憶するとおり、ファンニコの中隊は退却の際に、死体を方々に遺棄していた。
 その街路の舗石《しきいし》[#ルビの「しきいし」は底本では「しきうし」]の上だけに、二十余りの死体が散らばっていた。ガヴローシュにとっては二十余りの弾薬盒であり、防寨にとっては補充の弾薬であった。
 街路の上の硝煙は霧のようだった。つき立った断崖《だんがい》の間の谷合に落ちてる雲を見たことのある者は、暗い二列の高い人家にいっそう濃くなされて立ちこめてるその煙を、おおよそ想像し得るだろう。しかも煙は静かに上ってゆき、絶えず新しくなっていた。そのために昼の明るみも薄らいで、しだいに薄暗くなってくるようだった。街路はごく短かかったけれども、その両端の戦士は互いに見分けることがほとんどできなかった。
 かく薄暗くすることは、防寨《ぼうさい》に突撃せんとする指揮官らがあらかじめ考慮し計画したことだったろうが、またガヴローシュにも便
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