立ち上らしていた。ある瞬間には、軍隊に戦いをいどみながら、群集と騒乱とでおおわれてしまった。燃ゆるがような無数の頭が、その頂をおおい隠した。蟻《あり》のような群集がいっぱいになっていた。その頂上には、銃やサーベルや棍棒《こんぼう》や斧《おの》や槍《やり》や剣銃などがつき立っていた。広い赤旗が風にはためいていた。号令の叫び、進撃の歌、太鼓の響き、婦人の泣き声、餓死の暗黒な哄笑《こうしょう》、などがそこに聞かれた。防寨《ぼうさい》はまったく常規を逸したもので、しかも生命を有していた。あたかも雷獣の背のように電光の火花がほとばしり出ていた。神の声に似た民衆の声がうなっているその頂は、革命の精神から発する暗雲におおわれていた。異常な荘厳さが、巨人の屑籠《くずかご》をくつがえしたようなその破片の堆積から発していた。それは塵芥《ごみ》の山であり、またシナイの山([#ここから割り注]訳者注 モーゼがエホバより戒律を受けし所[#ここで割り注終わり])であった。
 上に言ったとおり、この防寨は革命の名においてしかも革命を攻撃したのである。偶然であり、無秩序であり、狼狽《ろうばい》であり、誤解であり、未知
前へ 次へ
全618ページ中10ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング