数であったこの防寨は、立憲議会と民衆の大権と普通選挙と国民と共和とを向こうにまわしたのである。それはマルセイエーズ([#ここから割り注]フランス国歌[#ここで割り注終わり])にいどみかかるカルマニョールの歌([#ここから割り注]革命歌[#ここで割り注終わり])であった。
狂乱せるしかも勇壮なる挑戦《ちょうせん》であった。なぜなれば、この古い郭外は一個の英雄だからである。
郭外と角面堡《かくめんほう》とは互いに力を合わしていた。郭外は角面堡の肩にすがり、角面堡は郭外に身をささえていた。広い防寨は、アフリカの諸将軍の戦略をも拉《ひし》ぐ断崖《だんがい》のごとく横たわっていた。その洞窟《どうくつ》、その瘤《こぶ》、その疣《いぼ》、その隆肉などは、言わば顔を顰《しか》めて、硝煙の下に冷笑していた。霰弾《さんだん》は形もなく消えうせ、榴弾《りゅうだん》は埋まり没しのみ込まれ、破裂弾はただ穴を明け得るのみだった。およそ混沌《こんとん》たるものを砲撃しても何の効があろう。戦役の最も荒々しい光景になれていた各連隊も、猪《いのしし》のごとく毛を逆立て山のごとく巨大なその角面堡《かくめんほう》の野獣を
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