、不安な目でながめたのである。
そこから約四半里ばかり先、シャトー・ドーの近くで大通りに出てるタンプル街の角《かど》で、ダルマーニュという商店の少しつき出た店先から思いきって頭を出してみると、遠くに、運河の向こうに、ベルヴィルの坂道を上ってる街路の中、坂道を上りきった所に、人家の三階の高さに達する不思議な障壁が見られた。それはあたかも左右の軒並みを連ねたがようで、街路を一挙にふさぐために最も高い壁を折り曲げたがようだった。しかしその壁は、実は舗石《しきいし》で築かれていたのである。まっすぐで、規則正しく、冷然として、垂直になっており、定規をあて墨繩《すみなわ》を引き錘鉛《すいえん》をたれて作られたもののようだった。もとよりセメントは用いられていなかったが、しかもローマのある障壁に見らるるように、そのため建築上の強固さは少しも減じていなかった。高さから推してまた奥行も察せられた。上層と地覆《ちふく》とはまったく数学的な平行を保っていた。灰色の表面には所々に、ほとんど目につかないくらいの銃眼の列が黒い糸のように見えていた。各銃眼の間には一定の等しい距離が置かれていた。街路には目の届くかぎ
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