り人影もなかった。窓も扉《とびら》も皆しめ切ってあった。そして奥に立っている防壁のために、あたかも袋町のようになっていた。防壁は不動のまま静まり返っていた。何らの人影も見えず、何らの音も聞こえなかった。一つの叫び声もなく、一つの物音もなく、息の音さえもなかった。まったく一つの墳墓だった。
六月のまぶしい太陽は、その恐るべき物の上に一面の光を浴びせていた。
これが、タンプル[#「タンプル」は底本では「タンブル」]郭外の防寨《ぼうさい》であった。
この場所に行ってそれをながむると、最も豪胆な者でもその神秘な出現の前に考え込まざるを得なかった。それはよく整い、よく接合し、鱗形《うろこがた》に並び、直線をなし、均斉《きんせい》を保ち、しかも凄惨《せいさん》な趣があった。学理と暗黒とがこもっていた。防寨《ぼうさい》の首領は、幾何学者かもしくは幽鬼かと思われた。人々はそれをながめ、そして声低く語り合った。
時々、兵士か将校かあるいは代議士かだれかが、偶然その寂しい大道を通りかかると、鋭いかすかな音がして、通行者は負傷するか死ぬかして地に倒れた。もし幸いにそれを免れる時には、閉ざされた雨戸か
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