、素石の間か、壁の漆喰《しっくい》かの中に、一発の弾《たま》がはいり込むのが見られた。時とするとそれはビスカイヤン銃のこともあった。防寨の人々は多く、一端を麻屑《あさくず》と粘土とでふさいだ鋳鉄のガス管二本で、二つの小さな銃身をこしらえていた。ほとんど火薬をむだに費やすことはなかった。弾はたいてい命中した。そこここに死体が横たわって、舗石《しきいし》の上には血がたまっていた。また著者は、一匹の白い蝶《ちょう》が街路を飛び回ってたことを記憶している。さすがに夏の季節だけは平然としていた。
 付近の大きな門の下には、負傷者がいっぱいはいっていた。
 そこでは、姿を隠してるだれかから常にねらわれるような感があった。明らかに街路中どこででもねらい打ちにされるらしかった。
 タンプル郭外の入り口に運河の円橋がこしらえてる驢馬《ろば》の背中ほどの空地の後ろに、攻撃縦列をなして集まってる兵士らは、そのものすごい角面堡《かくめんほう》を、その不動の姿を、その冷然たる様を、しかも死を招くその場所を、まじめな考え込んだ様子で偵察《ていさつ》していた。ある者らは、帽子が向こうに見えないように注意しながら、穹
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