楽園の中が見られた。母親は扇のように翼をひろげて雛《ひな》をおおうていた。父親は飛び上がって出て行き、それからまた戻ってきては、嘴《くちばし》の中に餌と脣《くち》づけをもたらしていた。朝日の光はその幸福な一群を金色に輝かし、増せよ[#「増せよ」に傍点]殖《ふ》えよ[#「えよ」に傍点]という自然の大法はそこにおごそかにほほえんでおり、そのやさしい神秘は朝の光栄に包まれて花を開いていた。コゼットは朝日の光を髪に受け、魂を空想のうちに浸し、内部は愛に外部は曙に輝かされ、ほとんど機械的に身をかがめて、同時にマリユスのことを思ってるのだとは自ら気づきもせずに、それらの小鳥を、その家庭を、その雌雄を、その母と雛とを、小鳥の巣から乙女心を深く乱されながらうちながめ始めた。

     十一 人を殺さぬ確実なる狙撃《そげき》

 襲撃軍の射撃はなお続いていた。小銃と霰弾《さんだん》とはこもごも発射された。しかし実際は大なる損害を与えなかった。ただコラント亭の正面の上部だけはひどく害を受けた。二階の窓や屋根部屋の窓は、霰弾のために無数の穴を明けられて、しだいに形を失ってきた。そこに陣取っていた戦士らは身
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