しいものではなく悲しいもののように思われた。
 それから、かかる暗雲の常として、静穏の気が彼女の心にまた起こってき、希望の念と、無意識的なそして神に信頼した微笑とが、心に起こってきた。
 まだ家中は眠っていた。あたりは田舎《いなか》のように静かだった。窓の扉《とびら》は一つも開かれていず、門番小屋もしまっていた。トゥーサンはまだ起きていなかったし、父も眠っているのだとコゼットは自然思った。彼女は非常に苦しんだに違いない、また今もなお苦しんでいたに違いない、なぜなら、父が意地悪いことをしたと考えていたからである。しかし彼女はマリユスが必ず来ると思っていた。あれほどの光明が消えうせることは、まったくあり得べからざることだった。彼女は祈った。ある重々しい響きが時々聞こえていた。こんなに早くから大門を開けたりしめたりするのはおかしい、と彼女は言った。しかしそれは、防寨《ぼうさい》を攻撃してる大砲の響きだった。
 コゼットの室《へや》の窓から数尺下の所、壁についてるまっ黒な古い蛇腹《じゃばら》の中に、燕《つばめ》の巣が一つあった。巣のふくれた所が蛇腹から少しつき出ていて、上からのぞくとその小さな
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