を隠すのやむなきに至った。けれども、それは防寨攻撃の戦術上の手段であって、長く射撃を続けるのも、暴徒らに応戦さしてその弾薬をなくすためだった。暴徒らの銃火が弱ってき、もはや弾も火薬もなくなったことがわかる時に、いよいよ襲撃をやろうというのだった。しかしアンジョーラはその罠《わな》にかからなかった。防寨《ぼうさい》は少しも応戦しなかった。
兵士らの射撃が来るたびごとにガヴローシュは舌で頬《ほお》をふくらました。それは傲然《ごうぜん》たる軽蔑を示すものだった。
「うまいぞ、」と彼は言った、「どしどし着物を破ってくれ。俺《おれ》たちは繃帯《ほうたい》がいるんだ。」
クールフェーラックは効果の少ない霰弾《さんだん》を嘲《あざけ》って、大砲の方へ向かって言った。
「おい、大変むだ使いをするね。」
戦いにおいても舞踏会におけるがごとく、人は相手をほしがるものである。角面堡《かくめんほう》がかく沈黙してることは、攻撃軍に不安を与え、何か意外の変事が起こりはしないかと心配させ始めたらしい。そして彼らは、舗石《しきいし》の砦《とりで》の向こうを見届けたく思い、射撃を受けながら応戦もしないその平然た
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