るよりも起き上がる若き娘の前に、いっそう敬虔《けいけん》でなければならない。手を触れることができるだけに、いっそうそっとしておくべきである。桃の実の絨毛《じゅうもう》、梅の実の粉毛、輻射状《ふくしゃじょう》の雪の結晶、粉羽におおわれてる蝶の翼、などさえも皆、自らそれと知らない処女の純潔さに比ぶれば、むしろ粗雑なものにすぎない。若き娘は夢にすぎなくて、まだ一つの像ではない。その寝所は理想のほの暗い部分のうちに隠れている。不注意な一瞥《いちべつ》はその漠《ばく》たる陰影を侵害する。そこにおいては観照も冒涜《ぼうとく》となる。
 それでわれわれは、コゼットが目をさましたおりのその香ばしい多少取り乱れた姿については、少しも筆を染めないでおこう。
 東方の物語が伝えるところによると、薔薇《ばら》の花は神からまっ白に作られたが、まさに開かんとする時アダムにのぞかれたので、それを羞《は》じて赤くなったという。われわれは若き娘と花とを尊むがゆえに、その前においては無作法な言を弄《ろう》し得ないのである。
 コゼットは急いで装いをし、髪を梳《す》きそれを結んだ。当時の婦人は、入れ毛や芯《しん》などを用い
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