やむを得ない場合には読者を婚姻の室《へや》に導くことはできるが、処女の室に導くことははばかられる。それは韻文においてもでき難いことであるが、散文においてはなおさらである。
処女の室は、まだ開かぬ花の内部である、闇《やみ》の中の白色である、閉じたる百合《ゆり》のひそやかな房《へや》で、太陽の光がのぞかぬうちは人がのぞいてはならないものである。蕾《つぼみ》のままでいる婦人は神聖なものである。自らあらわなるその清浄な寝床、自らおのれを恐れる尊い半裸体、上靴《うわぐつ》の中に逃げ込む白い足、鏡の前にも人の瞳《ひとみ》の前かのように身を隠す喉元《のどもと》、器具の軋《きし》る音や馬車の通る音にも急いで肩の上に引き上げられるシャツ、結わえられたリボン、はめられた留め金、締められた紐《ひも》、かすかなおののき、寒さや貞節から来る小さな震え、あらゆる動きに対するそれとなき恐れ、気づかわしいもののないおりにも常に感ずる軽やかな不安、暁の雲のように麗しいそれぞれの衣服の襞《ひだ》、すべてそれらのものは語るにふさわしいものではない。それを列挙するだけで既に余りあるのである。
人の目は、上りゆく星に対す
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