違いなかった。実に青春とはそうしたものである。青春はすぐに目の涙をかわかす。悲しみを不用なものとして、それを受け入れない。青春はある未知の者の前における未来のほほえみである、しかもその未知の者は青春自身である。それが幸福であるのは自然である。その息はあたかも希望でできてるかのようである。
その上コゼットは、マリユスがやってこないのはただ一日だけだというそのことについて、彼がどんなことを言ったか、またどんな説明をしたか、それを少しも思い出すことができなかった。地に落とした一個の貨幣がいかに巧みに姿を隠すか、そしていかにうまく見えなくなってしまうかは、人の皆知るところである。観念のうちにもそういうふうに人をたぶらかすものがある。一度頭脳の片すみに潜んでしまえば、もうおしまいである、姿が見えなくなってしまう、記憶で取り押さえることができなくなる。コゼットも今、記憶を働かしてみたが少しも効がないのにじれていた。マリユスが言った言葉を忘れてしまったのは、不都合なことであり済まないことであると、彼女は思った。
彼女は寝床から出て、魂と身体と両方の斎戒を、すなわち祈祷《きとう》と化粧とをした。
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