上にあげたが、それから砲車の上に横ざまに倒れ、そのまま身動きもしなかった。背中がこちらに見えていたが、そのまんなかからまっすぐに血がほとばしり出ていた。弾は胸を貫いたのである。彼は死んでいた。
彼を運び去って代わりの者を呼ばなけれはならなかった。かくて実際数分間の猶予が得られたのである。
九 昔ながらの射撃の手腕
防寨《ぼうさい》の中では種々の意見がかわされた。大砲はまた発射されようとしていた。その霰弾《さんだん》を浴びせられては十五、六分しか支持されない。その力を殺《そ》ぐことが絶対に必要だった。
アンジョーラは命令を下した。
「蒲団《ふとん》の蔽《おお》いをしなくちゃいけない。」
「蒲団はない、」とコンブフェールは言った、「皆負傷者が寝ている。」
ジャン・ヴァルジャンはひとり列から離れて、居酒屋の角《かど》の標石に腰掛け、銃を膝《ひざ》の間にはさんで、その時まで周囲に起こってることには少しも立ち交わらなかった。「銃を持っていて何にもしねえのかな、」とまわりの戦士らが言う言葉をも、耳にしないがようだった。
ところがアンジョーラの命令が下されると、彼は立ち上がっ
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