ちょうどふさわしい怜悧《れいり》な様子をしていた。
アンジョーラのそばに立ってるコンブフェールは、その男をじっとながめていた。
「まったく遺憾なことだ!」とコンブフェールは言った。「こういう殺戮《さつりく》は実に恐ろしい。ああ国王がいなくなれば、戦いももうなくなるんだ。アンジョーラ、君はあの軍曹をねらっているが、どんな男かよくはわからないだろう。いいか、りっぱな青年だ、勇敢な男だ、思慮もあるらしい。若い砲兵は皆相当な教育を受けてる者どもだ。あの男には、父があり、母があり、家族があり、意中の女もあるかも知れない。多くて二十五歳より上ではない。君の兄弟かも知れないんだ。」
「僕の兄弟だ。」とアンジョーラは言った。
「そうだ、」とコンブフェールも言った、「また僕の兄弟でもある。殺すのはやめようじゃないか。」
「僕に任してくれ。なすべきことはなさなければならない。」
そして一滴の涙が、アンジョーラの大理石のような頬《ほお》を静かに流れた。
と同時に、彼はカラビン銃の引き金を引いた。一閃《いっせん》の光がほとばしった。砲手長は二度ぐるぐると回り、腕を前方に差し出し、空気を求めてるように顔を
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