戻って来るのは非常に困難だった。戦列歩兵の一隊がプティート・トリュアンドリーに銃を組んでシーニュ街の方を監視しており、市民兵がその反対のプレーシュール街を占領していた。そして正面には軍勢の本隊が控えていた。
それだけのことを知らして、ガヴローシュは加えて言った。
「俺《おれ》が許すから、奴《やつ》らにどかんと一つ食わしてくれ。」
その間、アンジョーラは自分の狭間《はざま》の所にあって、耳を澄ましながら様子をうかがっていた。
襲撃軍の方は、砲弾の効果に不満だったのであろう、もうそれを繰り返さなかった。
一中隊の戦列歩兵が、街路の先端に現われて砲車の後ろに陣取った。彼らは街路の舗石《しきいし》をめくり、そこに舗石の小さな低い障壁をこしらえた。それは高さ一尺八寸くらいなもので、防寨に向かって作った一種の肩墻《けんしょう》だった。肩墻の左の角《かど》には、サン・ドゥニ街に集まってる郊外国民兵の縦隊の先頭が見えていた。
向こうの様子をうかがっていたアンジョーラは、弾薬車から霰弾《さんだん》の箱を引き出すような音を耳にし、また砲手長が照準を変えて砲口を少し左へ傾けるのを見た。それから砲手
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