八 大砲の真の偉力
人々はガヴローシュの周囲に集まった。
しかし彼は何も物語る暇がなかった。マリユスは駭然《がいぜん》として彼を横の方に招いた。
「何しに戻ってきたんだ。」
「なんだって!」と少年は言った。「お前の方はどうだ?」
そして彼はおごそかな厚かましさでマリユスを見つめた。その両の目は心中にある得意の情のために一際《ひときわ》大きく輝いていた。
マリユスはきびしい調子で続けて言った。
「戻ってこいとだれが言った! 少なくとも手紙はあて名の人に渡したのか。」
手紙のことについてはガヴローシュも多少やましいところがないでもなかった。防寨に早く戻りたいので、手紙は渡したというよりもむしろ厄介払いをしたのだった。顔もよく見分けないで未知の男に託したのは多少軽率だったと、彼は自ら認めざるを得なかった。実際その男は帽子をかぶってはいなかったが、それだけでは弁解にならなかった。要するに彼は、手紙のことについては少し心苦しい点があって、マリユスの叱責《しっせき》を恐れていた。でその苦境をきりぬけるために、最も簡単な方法を取って、ひどい嘘《うそ》を言った。
「手紙は門番
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