気味悪い静けさをして人の通行を許していた。サン・ドゥニ街は、スフィンクスの控えてるテーベの大道のようにひっそりしていた。四つ辻《つじ》は太陽の反映に白く輝いていたが、生あるものは何もいなかった。寂然《せきぜん》たる街路のその明るみほど、世に陰気なものはあるまい。
 何物も目には見えなかったが、物音は聞こえていた。ある距離をへだてた所に怪しい運動が起こっていた。危機が迫ってることは明らかだった。前夜のように哨兵《しょうへい》らが退いてきた、しかし今度は哨兵の全部だった。
 防寨は第一の攻撃の時よりいっそう堅固になっていた。五人の男が立ち去ってから、人々は防寨をなお高めていた。
 市場町の方面を見張っていた哨兵の意見を聞いて、アンジョーラは後方から不意打ちされるのを気使い、一大決心を定めた。すなわちその時まで開いていたモンデトゥール小路の歯状堡《しじょうほう》をもふさがした。そのためになお数軒の人家にわたる舗石《しきいし》がめくられた。かくて防寨は、前方シャンヴルリー街と、左方シーニュ街およびプティート・トリュアンドリー街と、右方モンデトゥール街と、三方をふさいで、実際ほとんど難攻不落に思
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