われた。彼らはまったくその中に閉じ込められた。正面は三方に向いていたが、出口は一つもなかった。「要塞《ようさい》にしてまた鼠罠《ねずみわな》か、」とクールフェーラックは笑いながら言った。
 アンジョーラは居酒屋の入り口の近くに三十ばかりの舗石《しきいし》を積ました。「よけいにめくったもんだ、」とボシュエは言った。
 攻撃が来るに違いないと思われた方面は、今やいかにも深く静まり返っていた。でアンジョーラは一同をそれぞれ戦闘位置につかした。
 ブランデーの少量が各人に分配された。
 襲撃に対する準備をしてる防寨《ぼうさい》ほど不思議なものはない。人々は芝居小屋にでもはいったかのように各自に自分の位置を選む。あるいは身体をよせかけ、あるいは肱《ひじ》をつき、あるいは肩でよりかかる。舗石を立てて特別の席をこしらえる者もある。邪魔になる壁のすみからはなるべく遠ざかる。身をまもるに便利な凸角《とつかく》があればそれにこもる。左ききの者は調法で、普通の者に不便な場所を占むる。多くの者は腰をおろして戦列につく。楽に敵を殺し気持ちよく死ぬことを欲するからである。一八四八年六月の悲惨な戦いにおいては、狙撃
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