ン様はなぜおいでにならなかったか」を尋ねに奥様からよこされたのだと。「私が参らないのはもう二日になります、」とジャン・ヴァルジャンは静かに答えた。
しかしその注意はニコレットの気に止まらなかった。彼女はそのことについては一言もコゼットに復命しなかった。
四 牽引力《けんいんりょく》と消滅
一八三三年の晩春から初夏へかけた数カ月の間、マレーのまばらな通行人や店頭にいる商人や門口にぼんやりしてる人などは、さっぱりした黒服をまとってるひとりの老人を見かけた。老人は毎日日暮れの頃同じ時刻に、オンム・アルメ街からサント・クロア・ド・ラ・ブルトンヌリー街の方へ出てきて、ブラン・マントー教会堂の前を通り、キュルテュール・サント・カトリーヌ街へはいり、エシャルプ街まできて左に曲がり、そしてサン・ルイ街へはいるのだった。
そこまで行くと、彼は足をゆるめ、頭を前方に差し出し、何にも見ず何にも聞かず、目を常に同じ一点にじっととらえていた。その一点は、彼にとっては星が輝いてるのかと思われたが、実はフィーユ・デュ・カルヴェール街の角《かど》にほかならなかった。その街路に近づくに従って、彼の目
前へ
次へ
全618ページ中538ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング