るようなことは、だれにでもあるものである。そういう卑怯《ひきょう》な念は、恋をしてる場合にことによく起こってくる。いとうべき事情を極度に聞きただすのは、賢明なことではない。自分の生命と分かつべからざる方面が必ずや関係してくるような場合には、ことにそうである。ジャン・ヴァルジャンが我を捨ててかかった説明からは、いかなる恐ろしい光が出て来るかわからなかったし、その忌むべき光がコゼットの身にまでおよぶかも知れなかった。その天使の額にも、地獄の光が多少残ってるかも知れなかった。電光の飛沫《ひまつ》もなお雷である。人の宿命にも一種の連帯性があるもので、潔白それ自身といえどもなお、他物をも染める反射の痛ましい法則によって罪悪の印が押されてることがある。最も純潔なるものにも、忌むべきものと隣した反映の跡がなお残ってることがある。正当か不当かは別として、とにかくマリユスは恐れをいだいた。彼は既にあまりあるほどのことを聞かされていた。その上深入りすることよりもむしろ心を転ずることを求めていた。彼は我を忘れて、ジャン・ヴァルジャンに対しては目を閉じながら、コゼットを両腕に抱き去った。
その男は闇《やみ》
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