《し》いられなくとも自らそれを言うことができました。宇宙に向かっても、世界中に向かっても、公言し得るでしょう。私には結局どうでもいいことです。しかし彼女は、彼女には、それがどんなことだかわかりますまい。どんなにおびえるでしょう。徒刑囚、それが何であるかも説明してやらなければなりますまい。徒刑場にはいっていた者のことだ、とも言ってやらなければなりますまい。彼女は、かつて一鎖《ひとくさり》の囚人らが通るのを見たことがあります。ああ!」
彼は肱掛《ひじか》け椅子《いす》に倒れかかり、両手で顔をおおうた。声は聞こえなかったが、肩の震えを見れば、泣いてるのが明らかだった。沈黙の涕泣《ていきゅう》、痛烈な涕泣だった。
むせび泣きのうちには息のできないことがある。彼は一種の痙攣《けいれん》にとらえられ、息をするためのように椅子の背に身を反《そ》らせ、両腕をたれ、涙にぬれた顔をマリユスの前にさらした。そしてマリユスは、底のない深みに沈んでるかと思われる声で、彼が低くつぶやくのを耳にした。
「おお死にたい!」
「御安心なさい、」とマリユスは言った、「あなたの秘密は私だけでだれにももらしません。」
前へ
次へ
全618ページ中490ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング