れに取りついていれば、彼は破滅から免れ、日光のうちに上ってゆき、衣服と頭髪とから苦い水をしたたらせ、救われ、生きながらえることができるのだった。
 もしそれを離せば!
 その時は深淵《しんえん》あるのみだった。
 かく彼は自分の考えに悲痛な相談をなしてみた。あるいは更に適切に言えば、戦いを開いた。彼は心のうちで、あるいは自分の意志に対してあるいは自分の確信に対して、猛然として飛びかかっていった。
 泣くことができたのは、ジャン・ヴァルジャンにとって一つの仕合わせだった。それはおそらく彼の心を晴らしたであろう。けれども争いの初めは激烈だった。一つの暴風雨が、昔彼をアラスの方へ吹きやったのよりもいっそう猛烈な暴風雨が、彼のうちに荒れ回った。過去は現在の前に再び現われてきた。彼はその両者を比較し、そしてすすり泣いた。一度涙の堰《せき》が開かるるや、絶望した彼は身をもだえた。
 彼は道がふさがったのを感じていた。
 ああ、利己心と義務との激戦において、昏迷《こんめい》し、奮激し、降伏を肯《がえ》んぜず、地歩を争い、何らかの逃げ道をねがい、一つの出口を求めつつ、巍然《ぎぜん》たる理想の前から一歩
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