ていた。残ってるのはただ、大きな家具と四方の壁ばかりだった。トゥーサンの寝床も同じように取り片づけてあった。ただ一つの寝床だけが用意されていて、だれかを待ってるようだった。それはジャン・ヴァルジャンの寝床だった。
 ジャン・ヴァルジャンは壁をながめ、戸棚《とだな》の二、三の戸を閉ざし、室《へや》から室へと歩き回った。
 それから彼は自分の室にはいり、テーブルの上に燭台《しょくだい》を置いた。
 彼はつるしていた腕をはずし、別に痛みもしないかのようにその右手を使っていた。
 彼は自分の寝台に近寄った。そして彼の目は、偶然にかまたは意あってか、コゼットがうらやんでたつき物[#「つき物」に傍点]の上に、決して彼のそばを離れない小さな鞄《かばん》の上に落ちた。六月四日オンム・アルメ街にやってきた時、彼はそれを枕頭《まくらもと》の小卓の上に置いていた。彼はすばしこくその小卓の所へ行き、ポケットから一つの鍵《かぎ》を取り出し、そして鞄を開いた。
 彼はその中から、十年前コゼットがモンフェルメイュを去る時につけていた衣裳を、静かに取り出した。第一に小さな黒い長衣、次に黒い襟巻《えりま》き、次にコゼッ
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