ていた。残ってるのはただ、大きな家具と四方の壁ばかりだった。トゥーサンの寝床も同じように取り片づけてあった。ただ一つの寝床だけが用意されていて、だれかを待ってるようだった。それはジャン・ヴァルジャンの寝床だった。
ジャン・ヴァルジャンは壁をながめ、戸棚《とだな》の二、三の戸を閉ざし、室《へや》から室へと歩き回った。
それから彼は自分の室にはいり、テーブルの上に燭台《しょくだい》を置いた。
彼はつるしていた腕をはずし、別に痛みもしないかのようにその右手を使っていた。
彼は自分の寝台に近寄った。そして彼の目は、偶然にかまたは意あってか、コゼットがうらやんでたつき物[#「つき物」に傍点]の上に、決して彼のそばを離れない小さな鞄《かばん》の上に落ちた。六月四日オンム・アルメ街にやってきた時、彼はそれを枕頭《まくらもと》の小卓の上に置いていた。彼はすばしこくその小卓の所へ行き、ポケットから一つの鍵《かぎ》を取り出し、そして鞄を開いた。
彼はその中から、十年前コゼットがモンフェルメイュを去る時につけていた衣裳を、静かに取り出した。第一に小さな黒い長衣、次に黒い襟巻《えりま》き、次にコゼッ
前へ
次へ
全618ページ中444ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
ユゴー ヴィクトル の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング