込んでいた。そしてある息吹《いぶき》を感じたかのように身を震わしていた。死のある所には、神占の几《つくえ》のごとき震えが起こるものである。魂の目がのぞき出てる彼の眸《ひとみ》からは、押さえつけた炎のような輝きが発していた。と突然彼は頭をもたげた。その金髪は後ろになびいて、星を鏤《ちりば》めた暗澹《あんたん》たる馬車に駕《が》せる天使の頭髪のようで、また後光の炎を発する怒った獅子《しし》の鬣《たてがみ》のようであった。そしてアンジョーラは声を張り上げた。
「諸君、諸君は未来を心に描いてみたか。市街は光に満ち、戸口には緑の木が茂り、諸国民は同胞のごとくなり、人は正しく、老人は子供をいつくしみ、過去は現在を愛し、思想家は全き自由を得、信仰者は全く平等となり、天は宗教となり、神は直接の牧師となり、人の本心は祭壇となり、憎悪は消え失せ、工場にも学校にも友愛の情があふれ、賞罰は明白となり、万人に仕事があり、万人のために権利があり、万人の上に平和があり、血を流すこともなく、戦争もなく、母たる者は喜び楽しむのだ。物質を征服するは第一歩である。理想を実現するは第二歩である。進歩が既に何をなしたか考えてみ
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