よ。昔最初の人類は、怪物が過ぎ行くのを恐怖に震えながら眼前に見た、水の上にうなりゆく怪蛇《かいだ》を、火を吐く怪竜《かいりゅう》を、鷲《わし》の翼と虎《とら》の爪《つめ》とをそなえてかける空中の怪物たるグリフォンを。それらは皆人間以上の恐るべき獣であった。しかるに人間は、罠《わな》を、知力の神聖なる罠を張り、ついにそれらの怪物を捕えてしまったのである。
吾人は怪蛇《かいだ》を制御した、それを汽船という。吾人は怪竜《かいりゅう》が制御した、それを機関車という。吾人はまさにグリフォンを制御せんとしている、既に手中に保っている、それを軽気球という。そしてこのプロメテウスのごとき仕事が成就する日こそ、すなわち怪蛇と怪竜とグリフォンとの三つの古代の夢想を、ついにおのれの意志に馴致《じゅんち》し終わる日こそ、人間は水火風三界の主となり、他の生ある万物に対しては、いにしえの神々が昔人間に対して有していたような地位を、獲得するに至るだろう。奮励せよ、そして前進せよ! 諸君、吾人はどこへ行かんとするのであるか。政府を確立する科学へである、唯一の公《おおやけ》の力となる事物必然の力へである、自ら賞罰を有
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