かるに彼は元来上官からもごく重んぜられ何ら非難すべき点もない男であって、その際残していった手記によって考えれば、精神に異状を呈して自殺を行なったものらしい、というのだった。ジャン・ヴァルジャンは考えた。「実際彼は、私を捕えながら放免したところをみると、どうしても既にあの時から気が狂っていたに違いない。」
六 コゼットを幸福ならしむるふたりの老人
結婚の準備は悉《ことごと》く整えられた。医者に相談すると、二月には行なってもいいという明言が得られた。今は十二月だった。かくて全き幸福の楽しい数週間が過ぎていった。
祖父も同じように幸福だった。彼はよく十四、五分間もコゼットに見惚《みと》れてることがあった。
「実にきれいな娘だ!」と彼は叫んだ。「そして至ってやさしく親切そうな様子だ。いとしき者よわが心よ、などと言ってもまだ足りない。これまで見たこともないほど美しい娘だ。やがては菫《すみれ》のように香んばしい婦徳も出て来るだろう。まったく優美の至りだ。こんな婦人といっしょにおれば、だれでもりっぱな生活をしないわけにはゆかない。マリユス、お前は男爵で金持ちだ。もう弁護士なんかには
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